職人インタビュー

 

牧圭太朗牧神祭具店

細緻な分業が生む「光の織物」

「錦織」とはどのような織物を指すのでしょうか。
多彩な色糸や金銀糸などを用いて文様を織り出した豪華絢爛な絹織物を古代から錦織と総称してきました。貴族の装束や高僧の袈裟、宝物の袋などに用いられました。正倉院裂に代表される過去の名品が今も多く残されていますので、先人の仕事に学びながら、新しい織物表現に挑戦しています。

「錦」という文字には豪華さをあらわす意味もありますね。
「故郷に錦を飾る」「錦秋」など、錦は古くから最上級をあらわす言葉として使われてきましたね。また、織物にまつわる用語の多くが糸偏なのに対し、錦織だけが金偏だというのも興味深いですね。古代ではそれこそ貴金属と同等の貴重な織物だったのでしょう。

ひとつの織物の製作に、多くの職人さんが携わるそうですね。
伝統織物の製作工程は大きく分けても30工程近くになります。養蚕から生糸を準備し、撚りをかけ、図案を描き、糸を染めて……。伝統織物といえば織機に腰掛けてトントントン、というイメージが強いかもしれませんが、あの作業は最終工程なんです。
分業の各工程はすべて手仕事でおこない、それぞれの工程に専門職がいます。京都・西陣が織物産地として高いレベルを保っているのは各工程の専門職が互いに切磋琢磨して協業しているからなんですよ。いわば京都の街全体がひとつの工場のような感じです。

龍村さんは織物美術家としてどのような役割を担っておられるのですか?
オーケストラにたとえると指揮者のような役割です。文様や配色を決め、各工程に最適な職人を選び、作業が始まれば工程全体を全体を見渡します。それぞれの専門職が本領を発揮して精緻な織物をつくりあげるために、作業のすべてを統括する立場です。

錦織の作品は光源や角度によってさまざまな表情をみせますね。
これこそ、錦織の最大の魅力です。絹糸の断面はプリズムのような構造を持っており、光を幾重にも反射させる特徴があります。多彩な色糸や金銀糸の輝きと相まってえもいわれぬ美しさをあらわすのが錦織の魅力です。以前、ヨーロッパで作品展をおこなったときに現地の方から「光の織物」と評されたことがありましたが、錦織の本質をあらわした言葉だと思います。

文様の意味を読み解く

新しい作品を制作される際のインスピレーションを教えて下さい。
いつも新しい文様を創作するところから始めます。文様を考える際には古代裂、名物裂と呼ばれる過去の名品を参考にすることもあります。古代から用いられてきた文様には表情的な美しさだけではなく、先人の祈りや願いが込められています。五穀豊穣や子孫繁栄など、人智の及ばない幸福を願う色やかたちには、ものづくりの本質があると思います。それは現代でも同じ。次代の幸せを祈って文様を描き、それを丁寧に織りなすことが、織物に携わる私たちの役目だと思うんです。

職人紹介

牧圭太朗/Keitaro Maki

牧圭太朗/Keitaro Maki

プロフィール

1977年生まれ。
神具・祭礼具などの調度具を手掛ける牧神祭具店に勤める。
祖父・父に師事して伝統技法を受け継ぎ神宝殿内調度品木具・神棚・地蔵堂などの製作・修復に携わる。